サイトウマサミツ
どのような作品を制作していますか?
イラストレーターとして長く活動してきましたが、ここ数年で、特に「即興」というスタイルをより重視するようになりました。 私の描く作品は、どうやってもちょっととぼけたような画風に仕上がってきてしまうので、だったらあまり考えずに「手に任せる」という感覚で描いてみよう、と。音楽に例えるとジャズみたいな感覚で表現しています。

コンテンポラリーダンサーの安藤洋子さんのジュニア向けダンス教室の発表会のユニフォームのために描いたイラストです。


こちらは、J-Waveさんの番組用のイメージイラストで、たくさん描いて持って行ったら、DJのクリス智子さんやスタッフの皆さんがこの二枚がどっちも良くて選べない!とスタックしちゃう瞬間があって、「いっそのこと両方使って下さい」と言ってみたら本当にそうなりました。
アート活動の経緯や印象に残った作品について教えて下さい
大学ではグラフィックデザインを学び、いくつかの職を経た後、フリーのイラストレーターとなりました。 マティスやピカソ、クレー、そしてベン・シャーンといった先達の影響を受ける中で、一本の線で喜びや悲しみを表現できたら何て素敵だろう!と思って、シンプルな画風が身についていったように思います。
そんな時に自分の転機になったと思っている作品が、もう18年も前になりますが、2007年の夏の終わりごろに行われた、黒沢美香さんと木佐貫邦子さんという二人のコンテンポラリー・ダンサーの公演のチラシです。
「約束の船」というタイトルの公演だったのですが、これが何度出してもなかなか決まらなくて、絵が悪いという訳じゃないんだけど、ダンスというより詩集の絵みたい・・・と言われて。それでもう追い込まれて、徹夜を重ねて最後の最後、明け方にふっと思いついて描いた絵がそれで。なんというか、「ラスコーの壁画」じゃないですが、本当にピュアに何かを表現できた気がして、今考えても、その作品が自分にとって何かを気づかせてくれた存在だったのではないかと思います。

キットパスを使い始めたきっかけは何ですか?
2014年のことになりますが、恵比寿にある「写真集食堂めぐたま」さんのプロジェクトで鏡にイラストを描かせていただいた時が最初です。鏡やガラスといったツルツルした特別なところに描く気持ちよさに一発でやられてしまい、それ以後はウインドウアートのようなシチュエーションではずっと愛用させていただいています。

キットパスに関する思い出やエピソードがありましたら教えて下さい
たくさんありますが、日本理化学工業さんでワークショップを開催したとき、玄関口のドアでライブペインティングを行ったのですが、その時に大山社長さんはじめご参加いただいたみなさんにどんどん絵を描き足していただいたのが、とても新鮮で、素敵な体験でした。僕は「一本の線」の表現力にこだわりがあるというのは先述の通りですが、みんな描く線が個性的で、自分には引けないような線がどんどん足されて、何より皆さんの楽しそうな姿が嬉しくて!それはとても貴重な経験でした。


キットパスのどこが好きですか?
やわらかくて描きやすいところ、そして発色。特にガラスに描いて光が通った時の美しさに魅かれます。僕はブロックタイプが好きでウインドウアート作品はほとんどブロックで描いています。今夏手掛けた「ダイアログ・イン・ザ・ダーク竹芝 対話の森」で開催された平和のための特別プログラム『ピース・イン・ザ・ダーク』のウインドウアートも、キットパスブロックで描きました。50メートル連なるガラス面を全て即興で一人で描き上げるのはなかなかの挑戦でしたが、大好きな青、白、黄色の3色をふんだんに使って、最後まで楽しんで仕上げることができました。



「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を手掛ける志村さんご夫妻と
本イベント「Peace In The Dark」は8月31日をもって終了いたしました。
From Editors
かわいくて、ちょっとおとぼけなところもあるサイトウさんのイラストを、あなたもきっとどこかで見たことがあるはず。しかしそのオシャレな作品たちが、「一本の線」との人生をかけた向き合いから生まれていたという話には、心が打たれました。インプロビゼーションから生まれる、唯一無二の世界。そんなサイトウさんのアーティスト活動に携わることができて、とても嬉しく感じています。